「お母さん、認知症かもしれない。」

医師からその言葉を聞いた日から、頭の中が真っ白になったという方は少なくありません。病院の帰り道、「これからどうすればいいのか」「仕事はどうなるのか」——不安と混乱が一気に押し寄せてくる。

認知症の介護は、骨折や入院といった「期間が見えるケア」とは異なります。数カ月ではなく、数年、場合によっては10年以上にわたることもある、長い道のりです。

だからこそ、診断された直後の「どうしよう」という混乱の中で、すぐに仕事を辞めるという判断をすることは、後々とても大きなリスクになりえます。

この記事では、親が認知症と診断されたとき、仕事をどう考え、何から動けばいいかを順番に整理していきます。

診断直後に「仕事を辞める」ことをすすめない理由

認知症の診断を受けた直後は、精神的なショックが大きく、冷静な判断が難しい状態です。そのタイミングで仕事を辞めてしまうと、以下のような問題が生じやすくなります。

収入がなくなり、介護費用の工面が難しくなる

認知症の介護は長期にわたります。デイサービスや訪問介護、場合によっては施設入所も視野に入れると、介護にかかる費用は決して小さくありません。仕事を辞めることで収入が途絶えると、その費用をどう賄うかという新たな問題が生まれます。

社会とのつながりが切れ、介護者自身が孤立する

仕事は単なる収入源ではなく、社会とつながる場でもあります。介護だけの毎日になると、気づかないうちに孤立し、介護者自身が精神的に追い詰められてしまうことがあります。

認知症の進行に合わせて、介護の量は変化する

認知症は、診断直後がもっとも手がかかるわけではありません。症状の進行に合わせて、必要な介護の内容も変わっていきます。診断直後に仕事を辞めても、数年後にまったく異なる状況になっていることもあります。

仕事を辞めるかどうかの判断は、「今の状況だけ」ではなく、「これからの長い見通し」を持った上で考えることが大切です。

まず動くべき3つのこと

地域包括支援センターに連絡する

認知症の診断を受けたら、最初に相談すべき窓口が地域包括支援センターです。市区町村ごとに設置されており、介護認定の申請、使えるサービスの案内、今後の見通しについてのアドバイスを無料で行っています。

「何から始めればいいかわからない」という状態でも、ここに連絡することで、次のステップが見えてきます。

介護保険の認定申請を進める

介護保険のサービスを利用するためには、まず「要介護認定」を受ける必要があります。申請から認定結果が出るまでには、通常1カ月前後かかります。仕事との両立を考えるなら、できるだけ早く申請を始めることをおすすめします。

認定を受けることで、デイサービス(日中の預かり)、訪問介護(ヘルパーの派遣)、ショートステイ(一時的な施設入所)などのサービスを自己負担1〜3割で利用できるようになります。

③ 職場の制度を確認する

「まだ職場に言える段階じゃない」と感じている方も多いと思いますが、まずは自分がどんな制度を使えるかだけでも把握しておくことが大切です。

介護休業(最大93日・分割取得可)、介護休暇(年5〜10日)、勤務時間の短縮制度——これらは法律で定められた権利であり、会社の規模に関係なく対象になります。「どう申請すれば使えるのか」を確認しておくだけで、いざというときの選択肢が広がります。

認知症介護と仕事を続けるための工夫

日中のケアをサービスに任せる仕組みをつくる

仕事を続けながら認知症の親を介護する上で、もっとも課題になるのが「日中の見守り」です。デイサービスを週複数回利用することで、日中は安全に過ごしてもらいながら、自分は仕事に集中できる環境をつくることができます。

はじめは「他人に任せることへの罪悪感」を感じる方もいますが、プロのケアは決して「手抜き」ではありません。むしろ、専門的なケアを受けることが本人の生活の質を高めることにつながります。

「急な呼び出し」への対策を職場と話し合う

認知症の介護で仕事への影響が出やすいのが、急な呼び出しや予測できない状況への対応です。「いつ電話がかかってくるかわからない」という状態で仕事を続けるのは、精神的にも非常に消耗します。

あらかじめ上司に状況を伝え、「急な対応が必要になることがある」と共有しておくだけで、職場側の理解が大きく変わることがあります。すべてを詳細に打ち明ける必要はありません。「親の介護が必要な状況になっている」というひと言から、始めてみてください。

ひとりで抱えず、家族や支援者と分担する

認知症の介護は、一人の人間が全部担うには、あまりにも重すぎます。兄弟姉妹がいれば役割を分担すること、遠方なら金銭的なサポートを担ってもらうこと、地域のサービスや専門家の力を借りること——「ひとりで抱えない」体制づくりが、長く続けるための鍵です。

それでも「限界かも」と感じたときは

制度を使い、サービスを組み合わせ、職場にも伝えた。それでも、「もう限界かもしれない」と感じる瞬間は訪れることがあります。

そのときに大切なのは、「辞める」か「続ける」かの二択で考えないことです。

たとえば、フルタイムからパートタイムへの変更、在宅勤務の活用、一時的な介護休業の取得——「完全に辞める」以外にも、働き方を変えながら続ける選択肢があります。

「自分の場合はどんな選択肢があるのか」を整理するためには、一人で考えるよりも、介護とキャリアの両方を理解している支援者に相談することが、もっとも早い近道になることがあります。

合同会社ENTAKUができること

合同会社ENTAKUは、「介護と仕事の間で、どうしたらいいかわからなくなっている方」のために、福祉とキャリアの両方の視点からサポートを行っています。

認知症の診断を受けた直後の混乱の中で、「何から手をつければいいか」「仕事はこのまま続けていいのか」という問いに、いっしょに向き合います。

介護サービスの情報提供だけでなく、職場への伝え方、制度の活用方法、長期的なキャリアの見通しまで——あなたの状況に合わせて、一つひとつ整理していきます。

「まだ相談するほどでもないかも」と思っているうちが、実は一番いいタイミングです。

まとめ

親が認知症と診断されたとき、仕事についてまず大切なことは「すぐに辞めない」という判断です。

  • 地域包括支援センターに連絡し、介護保険の申請を始める
  • 職場で使える制度(介護休業・介護休暇)を確認しておく
  • 日中のケアをサービスに任せる仕組みをつくる
  • 職場に「状況を伝える」ことで理解を得る
  • 限界を感じたら、介護とキャリアの両方を相談できる場所を探す

長い道のりだからこそ、最初のステップを焦らず、丁寧に踏み出してほしいと思います。

合同会社ENTAKUは、その一歩を一緒に考える場所として、いつでもお待ちしています。

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