親の介護が始まるとき、家族の中で役割分担がはっきり決まっているとは限りません。

親の介護が始まると、病院への付き添い、介護保険の申請、ケアマネジャーや事業所との連絡、親の様子の確認、きょうだいへの共有など、さまざまな役割が出てきます。

最初から話し合って決まる家族もあります。

しかし実際には、近くに住んでいる人、最初に連絡を受けた人、親の変化に気づいた人、仕事や生活を調整しやすいと思われた人に、少しずつ役割が集まっていくことがあります。

その結果、家族がいるにもかかわらず、介護の負担が特定の一人に偏っていくことがあります。

親の介護で家族に負担が偏るのは、単に「誰かが協力しないから」だけではありません。

介護者の続柄、同居や近居の状況、性別、仕事、これまでの家族関係など、いくつもの条件が重なって起こります。

だからこそ、親の介護で負担が偏っていると感じたときには、感情だけで話し合いを始める前に、まず何が起きているのかを整理することが大切です。

1|親の介護は、家族全員で平等に始まるとは限らない

親の介護は、家族全員で同じように始まるわけではありません。

厚生労働省の「2022年 国民生活基礎調査」では、主な介護者は配偶者や子など、身近な家族が中心となっています。

同居している主な介護者の続柄を見ると、配偶者、子、子の配偶者が多くを占めています。

つまり、介護は親族全体で広く分担されるというより、夫婦間や親子間など、限られた関係の中で担われやすい現実があります。

家族が複数いても、実際に動く人は限られることがあります。

近くにいるから。
親から直接連絡が来るから。
病院や役所に行きやすいから。
昔から家族内の調整役をしてきたから。

そうした理由で、最初に動いた人がそのまま主な担い手になっていくことがあります。

介護の負担が偏る背景には、この「最初に動いた人に役割が固定されやすい」構造があります。

2|近くにいる人ほど、介護の中心になりやすい

介護の役割を決める大きな要因の一つが、親との距離です。

同じ市内に住んでいる。
実家の近くにいる。
親の家に行きやすい。
急な連絡に対応しやすい。

こうした人は、介護が始まる前から、親のちょっとした用事を頼まれやすい立場にいます。

買い物を頼まれる。
病院の日程を確認する。
書類を見る。
様子を見に行く。
親族に連絡する。

最初は小さな手伝いでも、それが続くうちに、介護の窓口になっていくことがあります。

厚生労働省の「2022年 国民生活基礎調査」でも、主な介護者が要介護者と同居している割合は高く、別居の家族等が主な介護者となる割合を上回っています。

これは、介護が話し合いで平等に始まるというより、近くにいる人、日常的に関わる人に集まりやすいことを示しています。

遠くに住む兄弟姉妹が、何も考えていないとは限りません。

ただ、日々の変化を見ていないと、どれくらい大変なのかが分かりにくいことがあります。

一方で、近くにいる人は、親の変化を見続け、急な対応を重ね、気づけば多くのことを引き受けていることがあります。

この差が、家族の間に温度差を生みます。

3|女性に介護負担が偏りやすい現実

介護負担の偏りには、性別も関係します。

厚生労働省の「2022年 国民生活基礎調査」では、主な介護者に占める女性の割合が高くなっています。

同居の主な介護者でも、別居の主な介護者でも、女性が多い傾向があります。
また、「ほとんど終日」介護をしている人でも、女性の割合が高くなっています。

これは、女性が介護すべきだという意味ではありません。

むしろ、家族の中で介護の役割が、性別やこれまでの家族内の役割意識と結びつきやすいことを示しています。

娘だから。
嫁だから。
母親のことは女性の方が分かるから。
仕事を調整しやすそうだから。
昔から家族の世話をしてきたから。

そうした言葉にならない期待が、介護の役割に影響することがあります。

本人が望んで引き受けている場合もあります。

けれど、断りにくさや、周囲からの期待によって、気づかないうちに役割が固定されていくこともあります。

介護分担を考えるときには、誰がどれだけ動いているのかだけでなく、なぜその人に役割が集まっているのかを見る必要があります。

4|働きながら介護する人にも負担は集中する

親の介護は、家庭の中だけで完結する問題ではありません。

仕事との関係にも大きく影響します。

総務省の「令和4年 就業構造基本調査」では、介護をしながら働いている人が多く存在することが示されています。

2022年時点で、介護をしながら働いている人は約365万人とされています。

また、同調査では、2021年10月から2022年9月までの1年間に、介護・看護を理由に離職した人は10.6万人とされています。

働きながら介護をしている人は、仕事の責任と家族の役割の間で揺れやすくなります。

休みを取りやすい人。
親の家に行きやすい人。
職場に事情を話しやすい人。
逆に、責任ある立場で休みにくい人。

それぞれ事情があります。

兄弟姉妹がいても、仕事の状況が違えば、同じように動けるとは限りません。

ただ、その違いを話し合わないまま進むと、結局、動ける人、動いてしまった人に負担が集まりやすくなります。

介護の負担の偏りは、家族関係だけでなく、仕事や生活の継続にも影響します。

だからこそ、早い段階で整理が必要になります。

5|兄弟姉妹で介護分担がうまくいかない理由

親の介護では、兄弟姉妹がいても分担がうまくいかないことがあります。

その理由は、単純に「協力する気があるかどうか」だけではありません。

親との距離が違う。
仕事や家庭の状況が違う。
親との関係性が違う。
介護への危機感が違う。
情報を持っている量が違う。
これまで家族の中で担ってきた役割が違う。

こうした違いがあるため、同じ親の介護について話していても、見えている景色が違うことがあります。

近くにいる人は、親の変化を日々見ています。
遠くにいる人は、電話や報告でしか状況を知りません。

動いている人は、細かな負担を積み重ねています。
動いていない人は、どれほどの手間がかかっているのか想像しにくいことがあります。

そのまま話し合うと、すれ違いが起こりやすくなります。

「少しは手伝ってほしい」
「そんなに大変だと思わなかった」
「できることはやっている」
「結局、私ばかり」

介護分担がうまくいかないとき、必要なのは、すぐに誰かを責めることではありません。

まず、何が誰に偏っているのかを見える形にすることです。

6|負担の偏りは、あとから変えにくくなる

介護の役割は、一度決まると変えにくくなることがあります。

たとえば、病院に付き添った人が次の受診も担当する。
ケアマネジャーと連絡を取った人が、その後も窓口になる。
書類を確認した人が、手続き全般を任される。
親から頼られた人に、何かあるたびに連絡が入る。

こうして、役割が少しずつ固定されていきます。

本人も、最初は「今回だけ」と思っていたかもしれません。

けれど、周囲から見ると、

「あの人が分かっている」
「あの人に聞けばいい」
「あの人がやってくれている」

となっていきます。

その結果、負担が集まっている人ほど情報を持ち、情報を持っているからさらに頼られる、という状態になります。

これが続くと、本人が限界を感じても、途中で役割を手放しにくくなります。

介護の負担が偏るときには、作業の量だけでなく、情報、判断、連絡、感情の負担も一人に集まりやすいのです。

7|分担の前に、まず整理すること

親の介護で家族に負担が偏っていると感じたとき、すぐに「どう分担するか」を話し合いたくなるかもしれません。

もちろん、分担は大切です。

ただ、その前に整理しておきたいことがあります。

今、誰が何を担っているのか。
どの負担が一人に集中しているのか。
家族の中で共有できていない情報は何か。
誰に何を頼める可能性があるのか。
自分はどこで限界を感じているのか。

ここを整理しないまま話し合うと、感情のぶつかり合いになりやすくなります。

「もっと手伝ってほしい」
「できることはしている」
「そんな言い方をしなくてもいい」
「結局、分かってもらえない」

そうなってしまうと、介護の話し合いそのものが難しくなります。

介護分担は、気持ちだけで決められるものではありません。

親の状態、家族の距離、仕事、生活、これまでの関係が重なって決まっていきます。

だからこそ、まずは状況を整理することが必要です。

8|だからこそ、伴走相談が必要になる

親の介護で家族に負担が偏るとき、必要なのは「誰が悪いか」を決めることではありません。

まず、いま誰が何を担っているのか。
どこに負担が集中しているのか。
家族の中で何が話し合えていないのか。
支える人本人が、何に限界を感じているのか。

そこを整理することが必要です。

介護の問題は、制度やサービスだけでは整理しきれないことがあります。

家族関係。
仕事。
生活。
お金。
親との距離感。
きょうだいとの温度差。
支える人本人のこれから。

そうしたものが重なっているからです。

一人で考え続けていると、何から話せばいいのか、どこから動けばいいのか分からなくなることがあります。

だからこそ、介護の状況と、支える人本人の生活や家族関係を一緒に整理する伴走相談が必要になります。

伴走相談では、答えを一方的に決めるのではありません。

誰が何を担っているのか。
何が負担になっているのか。
どこで話が止まっているのか。
これから何を選べる状態に近づけるのか。

そこを一緒に確認していきます。

親の介護を家族だけで抱え込まないために。
そして、支える人が「介護だけの人」にならないために。

負担が偏っていると感じたときこそ、まずは状況を整理することが大切です。

詳しくは、相談ページでご案内しています。

参考資料

  • 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」
  • 総務省「令和4年 就業構造基本調査 結果の概要」